第29回シスメックス学術セミナー(2006年度)講演要旨

免疫能から血液疾患病態を探る

座長:
早稲田大学理工学術院 浅野 茂隆 先生

1. 樹状細胞の基礎免疫学と免疫療法への応用

京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 講師 門脇 則光 先生

2. 自己免疫疾患の病態と自己反応性T細胞

慶應義塾大学医学部内科 助教授 桑名 正隆 先生

3. 白血病に対する細胞免疫療法

愛媛大学大学院医学系研究科 医学専攻 生体統御内科学 教授 安川 正貴 先生

4. 造血幹細胞移植における免疫反応 ー移植片対宿主病ー

九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 助教授 豊嶋 崇徳 先生

1. 樹状細胞の基礎免疫学と免疫療法への応用

京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 講師 門脇 則光 先生

 感染免疫、抗腫瘍免疫、同種免疫のおもなエフェクター細胞であるT細胞の活性は樹状細胞(dendritic cells; DC)によって制御されている。DCは、大きくmyeloid DC (mDC), plasmacytoid DC (pDC)という2つのサブセットからなり、これらのDCサブセットは微生物の認識レセプターであるToll-like receptor (TLR)の発現パターンが異なる。さらに、mDC, pDCとも自然免疫反応から受けるシグナルの違いによってTh1、Th2、さらに制御性T細胞(Treg細胞)といった異なる獲得免疫反応を誘導する。このように、DCは微生物や自然免疫系といった環境要因と相互作用することによって、免疫賦活作用および免疫抑制作用を発揮する。こうしたDCの特性を利用して、癌、感染症、アレルギー疾患、自己免疫疾患といった種々の免疫関連疾患の新たな治療法を開発することができる。

2. 自己免疫疾患の病態と自己反応性T細胞

慶應義塾大学医学部内科 助教授 桑名 正隆 先生

 様々な血液細胞や凝固関連因子が自己免疫応答の標的となり、例えば血小板が標的となれば血小板減少をきたす(特発性血小板減少性紫斑病)。自己抗原を認識するT細胞が自己免疫疾患の病態において中心的な役割を果たす。T細胞は多様な抗原認識様式を持つレパートリーから構成され、その中には外来抗原を認識するものだけでなく自己成分に対するT細胞も含まれる。免疫は本来自己成分に対して応答しないメカニズム(免疫寛容)を備えているが、自己免疫疾患患者の体内では自己反応性T細胞がクローナルに増殖し、病態を形成する。B細胞からの病的活性を持つ自己抗体の産生は自己反応性CD4陽性T細胞との結合によるサイトカインや副刺激分子を介したヘルパー活性に依存する。また,自己反応性CD8陽性T細胞による細胞傷害により病態が誘導される疾患も存在する。これら自己反応性T細胞のエフェクター活性は格好な治療標的として期待されている。

3. 白血病に対する細胞免疫療法

愛媛大学大学院医学系研究科 医学専攻 生体統御内科学 教授 安川 正貴 先生

 最近の基礎研究および造血幹細胞移植をはじめとする多くの臨床研究から、従来の化学療法のみによる造血器腫瘍細胞の撲滅には限界があり、治癒達成には免疫学的監視機構による腫瘍細胞排除が重要であることが明確になってきた。われわれは今までに、種々の造血器腫瘍関連抗原エピトープを同定してきた。また、これらの合成ペプチドを用いて、造血器腫瘍細胞を特異的に認識するCD8陽性細胞傷害性T細胞(CTL)クローンならびにCD4陽性T細胞クローンを樹立し、その抗白血病効果を中心に機能的解析を行ってきた。これらの研究成果をもとに、現在がんペプチドワクチン療法の第 I 相臨床試験を遂行している。本講演では、これまでのわれわれの白血病特異的T細胞の樹立と機能解析の成績を紹介し、白血病に対する抗原特異的細胞免疫療法の可能性について論じてみたい。

4. 造血幹細胞移植における免疫反応 ー移植片対宿主病ー

九州大学病院 遺伝子・細胞療法部 助教授 豊嶋 崇徳 先生

 造血幹細胞移植は骨髄移植からはじまり、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植へと展開してきた。また、ミニ移植の導入による高齢者への適応拡大、固形がんや膠原病への適応のための研究も開始されており、造血幹細胞移植の理解をますます深める必要がある。同種造血幹細胞移植は、がんに対する免疫療法のプロトタイプであるが、同時に現在でも最も有効で、実績のある免疫療法であるといえる。この効果の本態は、同種免疫反応であり、これによって抗腫瘍効果(graft-versus-leukemia effect:GVL)が発揮される。しかし同時に患者の体細胞も標的となり、移植後の最大の合併症である移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)が発症する。この同種免疫反応の理解は造血幹細胞移植の理解・研究のために必須であり、本講演では最近の知見も含めて解説する。