リンパ腫診断における最近の進歩:分類の変遷と分子病態

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
医学部長・教授 吉野 正 先生

二十一世紀に入って、リンパ腫における大きな進展はWHO分類が制定されたことである。2001年に第3版、2008年に第4版が上梓された。その根本的な姿勢は、母細胞を推定し、分類を進めるとともに、その中から臨床病理学的特徴が顕著なものを分離独立させるということにある。母細胞を重視する姿勢はKiel分類に軌を一にする。分類に当たっては染色体異常、責任遺伝子の同定、特徴的細胞マーカーの検索が必須である。第3版から第4版が上梓されるまでのわずか7年の間にも検索手段や臨床病理学的研究成果は格段に増大し、それに伴い疾患数が顕著に増加している。リンパ球系腫瘍の第4版は、第3版の約1.7倍の疾患数となり総計84疾患に増加している。本講演では、上記分類の必要性を示すとともに、問題点も明らかにする。また、主要な疾患についての最近の話題を示し、マイクロアレイなどの解析により得られた情報など現在進行中の研究や今後の方向性を示すことを企図する。

All about my bone marrow pathology:極私的骨髄病理論

名古屋第一赤十字病院
副院長・病理部長 伊藤 雅文 先生

血液疾患の日常診療において、診断の基本は形態学であり、細胞診断学が中心となり進歩してきた。骨髄病理診断は、血液内科も病理もそれほど高いウエートを占めていない。WHO分類が示す方向性は、白血病、リンパ腫を問わず、組織像、免疫形質、分子病理診断を基に分類する。この分類により示される疾患単位は、臨床病態の特徴、治療選択において、客観性をより高める。細胞診断と病理診断の違いは、形態学の同じ土俵でありながら次元の違いであり、それに伴い見方、考え方を変える必要がある。骨髄を組織で見るということは、細胞と異なる位相(トポロジー)から疾患をとらえることであり、さらに時間経過を加えた位相によりその時空間を把握できる。つまり、細胞学的平面から多次元への展開により骨髄病理を考えることである。本講演では骨髄を組織で見るということの基本的考え方と、さまざまな造血障害の病理診断について具体例を中心に解説する。

骨髄と骨の深い関係:多発性骨髄腫、骨転移の骨微小環境と腫瘍進展

徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 生体情報内科学
准教授 安倍 正博 先生

骨は造血幹細胞や白血病幹細胞のニッチを形成し、造血細胞や腫瘍細胞の維持生育に骨微小環境が深く関与する。形質細胞の悪性腫瘍である多発性骨髄腫や骨転移癌は、骨に親和性を持ち進行性の骨病変を形成し、骨病変骨髄微小環境で生育しつつ治療抵抗性を獲得する。骨髄腫骨破壊性病変部骨髄内では、骨髄腫細胞により破骨細胞や骨芽細胞への分化が抑制された骨髄間質細胞が誘導され、血管新生が亢進している。骨髄腫骨病変部に誘導されるこれらの細胞は、“骨髄腫ニッチ”と言うべき骨髄腫細胞の生存・増殖に好適な細胞環境を形成する。従って、骨髄腫細胞は自らが骨髄内に形成した骨髄腫ニッチで育まれ薬剤抵抗性を獲得し、免疫担当細胞の機能低下も相まって旺盛に増殖し、骨破壊・骨喪失を進行させつつ骨髄腫ニッチを拡大するという悪循環を形成していると考えられる。近年、新規薬剤の臨床応用が進み、骨髄腫や骨転移癌の治療成績は向上しつつあるが、未だ難治である。骨髄腫や骨転移癌に対する治療成績のさらなる向上のためには、腫瘍増殖と骨代謝の制御機構との関わりを含めた骨・骨髄微小環境の統合的な理解と、この特異な腫瘍細胞の生育環境を標的とする新たな治療戦略の開発が重要である。

間葉系幹細胞や遺伝子操作Tリンパ球を用いた細胞治療/遺伝子治療の最新動向

自治医科大学 内科学講座血液学部門
教授 小澤 敬也 先生

骨髄の間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)は、骨髄ストローマ細胞だけでなく、脂肪細胞・骨細胞・軟骨細胞・筋細胞・腱などの中胚葉系の様々な組織に分化する能力を持った細胞として、再生医療への応用といった観点から注目されている。さらに造血幹細胞移植領域では、MSCが組織傷害部位や炎症部位に集積していく性質があり、また免疫抑制作用を有することから、重症の急性移植片対宿主病(GVHD)に対する治療効果が期待されている。癌免疫療法の新しい戦略としては、キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:CAR)を患者Tリンパ球に発現させ、体外増幅して戻すという新しい養子免疫遺伝子療法の臨床研究が脚光を浴びている。特に、CD19抗原を標的としたCAR発現Tリンパ球を用いた遺伝子治療は、非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病などを対象とした臨床研究が米国で実施され、有望な結果が得られている。

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